PART1
パート1:ジェンダー研究の新展開―この10年と今後
第1部「ジェンダー研究の新展開―この10年と今後」を2019年9月20日に開催しました。既存の知のあり方を問い直し、差異や多様性の議論をリードしてきたジェンダー研究を取り上げました。その近年の展開を振り返り、ダイバーシティが声高に叫ばれる現状や現在の課題、今後の研究のあり方を議論しました。
たくさんの方にご来場・ご参加いただき誠にありがとうございました。
基調講演
江原由美子<えはら ゆみこ>
1952年横浜生まれ。横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授。日本学術会議連携会員。1975年東京大学文学部卒業、1979年同大学院社会学研究科博士課程中退、博士(社会学)。東京都立大学助手・お茶の水女子大学助教授などを経て、2001年東京都立大学人文学部教授、2005年同改組により首都大学東京都市教養学部教授、2017年4月より現職。主著に『ジェンダーの社会学入門』(共著、岩波書店、2008)、「ジェンダーフリーのゆくえ」(友枝・山田編『Do!ソシオロジー』、アロマ選書、有斐閣、2007、第7章)、『ジェンダーと社会理論』(共編著、有斐閣、2006)、『女性のデータブック』(共編著、有斐閣、2005)、『ジェンダー秩序』(勁草書房、2001)など。
イルゼ・レンツ<Ilse Lenz>
社会学者。ボーフム大学名誉教授。フランクフルト大学、京都大学、東京大学等で客員教授を務める。日本留学をきっかけに日独比較研究に従事。ジェンダーやそのエスニシティ、階級、セクシュアリティとの交差性、フェミニズム・社会運動の国際比較、グローバリゼーション等の社会変動と労働について研究。著書・論文多数。近著に『日本の女性運動――平等、差異、参画』(前みち子との共編著、Springer、2018、ドイツ語)、『ジェンダーと柔軟化された資本主義――新たな格差』(共編著、Springer、2017、ドイツ語)、『ドイツの新しい女性運動』(編著、Springer、2010、ドイツ語)、 “Equality, difference and participation: women's movements in global perspective”(Global History of Social Movements、共著、PalgraveMacmillan、2017)など。
パネルセッション
風間孝<かざま たかし>
中京大学国際教養学部教授。日本の性的マイノリティ差別についての研究とともに、性的マイノリティの支援にかかわる。名古屋市男女平等参画推進会議(イコールなごや)委員のほか、NPO法人PROUD LIFE副代表理事も務める。 主著に 『ゲイ・スタディーズ』(共著:青土社、1997) 『同性愛と異性愛』(共著、岩波新書、2010) 『教養としてのジェンダーと平和』(共編著、法律文化社、2016)、『教養のためのセクシュアリティ・スタディーズ』(共著:法律文化社、2018年)ほか。
セクシュアリティ研究
【概要】
日本では、1980年代半ばに始まるエイズ危機のなかで、(男性)同性愛者はナショナリズムの形成から排除されるべき存在として、また理解不能なセクシュアリティを持つ存在として可視化した。一方でこうした可視化は、同性愛者の社会運動を生起させたが、人権の主張は嘲笑の対象とされ、真剣に議論する対象とはみなされなかった。
こうした風潮は2010年代に入って大きく変化する。欧米圏を中心に性的マイノリティに対して人権を保障するグローバルな趨勢が日本にも影響を及ぼすようになり、経済の領域では性的マイノリティをは可処分所得を多く持つ消費者として注目されるようになったのである。また政治の領域でも、かつては同性愛者への施策の必要性を否定した政党が「性の多様なあり方について寛容の伝統を持つわが国は、悩みを抱える当事者の困難に政策的な課題として取り組むべきである」と主張するようになっている。性的マイノリティであることはナショナリズムの形成から排除されているとは言えない状況にある。
この報告では、80〜90年代と対比しながら2010年代における性的マイノリティをめぐる力学をホモナショナリズム、多様性、寛容等の概念を用いて分析をし、2010年代におけるセクシュアリティ研究の課題を提示したい。
兼子歩<かねこ あゆむ>
明治大学政治経済学部専任講師。専門はアメリカ社会史(ジェンダー史)。主要業績として兼子歩「インターセクショナリティの時代?:『女性のワシントン大行進』にみるジェンダーと人種」『アメリカ史研究』42号(2019. 8刊行予定)/兼子歩・貴堂嘉之編『「ヘイト」の時代のアメリカ史:人種・民族・国籍を考える』(彩流社、2017)/兼子歩訳、ニナ・シルバー『南北戦争のなかの女と男:愛国心と記憶のジェンダー史』(岩波書店、2016)/兼子歩訳、ソニア・ローズ『ジェンダー史とは何か』(法政大学出版局、2016)がある。
アメリカ史・ジェンダー史研究
【概要】
1970年代以降に米国で盛んになった女性史研究は、近年ではジェンダー史研究として発展してきた。近年のジェンダー史研究の展開について、ここでは2点挙げる。
第1に、人種など他の権力関係を構成する社会的要素がジェンダーと交錯することによって生じてきた諸問題を検討する、インターセクショナルな歴史研究である。アメリカ史では人種とジェンダーの交錯が以前から研究されてきたが、近年、「白人性(の特権)」の構築とジェンダーがいかに結びついてきたのかを論じる研究が増加している。
第2に、アメリカ政治史にジェンダーを組み込む叙述である。従来、総合的叙述といえば既存の叙述に女性史・ジェンダー史を付加するものであったが、近年、政治史の展開においてジェンダーが不可欠の役割を果たしたことを、女性史および男性史研究の成果を交えながら叙述する研究が登場している。以上の点を、アメリカ史研究の具体例に即して論じたい。
藤本由香里<ふじもと ゆかり>
明治大学国際日本学部教授。専門はジェンダーと表象、漫画文化論。07年まで筑摩書房で上野千鶴子氏の著作などジェンダー系の問題を扱う編集者として働くかたわら、コミック・セクシュアリティなどを中心に評論活動を行う。新聞や雑誌に連載コラムを持つほか、メディア芸術祭マンガ部門・手塚治虫文化賞・講談社漫画賞などの選考委員を歴任。08年より明治大学へ。もともとは少女マンガが専門だが、最近ではマンガの国際比較や海外市場調査なども行っている。マンガ学会理事。代表的な著書に『私の居場所はどこにあるの?』(学陽書房/朝日文庫)、『快楽電流』(河出書房新社)など。主な論文に、"The Evolution of BL as “Playing with Gender” (Boys Love Manga and Beyond. University Press of Mississippi, 2015)ほか。
表象・メディア
【概要】
ここ数年、もっとも変化したのはLGBT周辺の社会環境と表現である。少女マンガの中では、1970年代の初め頃から男装の少女、女装の少年、男同士の愛、女同士の愛……という形で既存のジェンダー秩序を問い直すような作品が次々と生まれてきていたが、それらは現実のゲイやレズビアンとは切り離されがちであった。しかしここへきて、現実とフィクション懸け橋になるような作品が次々と生まれてきている。もちろんその背景には、東京オリンピック決定を機に「ダイバーシティ&インクルージョン」が言われ始めた社会の動きがある。もう一つ特筆すべきなのは、最近では「ジェンダーレス男子」という言葉も聞かれるように、2000年代半ばくらいから、「女装男子」「スイーツ男子」「お弁当男子」など、男性文化への女性文化の取入れが進んできたことである。こうした、「性別」を問い直す表現の最近の動きを、海外の事例も交えて概観するとともに、今後の研究の課題を検討する。
牟田和恵<むた かずえ>
大阪大学大学院人間科学研究科教授。専門は社会学、ジェンダー論。近代化とジェンダーポリティクス、性暴力問題について研究。日本初のセクハラ裁判の支援代表、研究実践の両面からセクハラ問題に関わる。『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社、2013)、『ここからセクハラ!アウトがわからない男、もう我慢しない女』(集英社、2018)を刊行。主な編著書に『戦略としての家族—近代日本の国民国家形成と女性』(新曜社、1996)、『家族を超える社会学』(新曜社、2009)、『架橋するフェミニズム―歴史・性・暴力』(電子書籍、2018)など。『キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク』に創立時から参加。NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)理事。杉田水脈衆院議員を訴えた「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判」(2019.2提訴 http://kaken.fem.jp/)原告。
性暴力・ハラスメント:研究と運動の往還
【概要】
日本における性暴力およびハラスメント問題の展開を30年を遡って検討する。この30年のあいだ、研究は運動や実践と往還しつつ展開した。
1989年に登場した「セクハラ」概念は、別々に問題化されてきた性と労働を合わさったものとして社会的・学問的に浮上させた点で重要であった。法制化がすみやかに進んだものの、女性差別という観点とは乖離があった。次に2017年のMeToo運動から現在に続く反性暴力の動きとそれへの反動に注目する。17年に刑法177条改正が実現したが19年3月には性暴力無罪判決が相次ぎ、法曹の性暴力への無理解だけでなく、性暴力を告発することに対する反動が強く存在することが可視化された。これは「慰安婦」少女像への攻撃ともつながっている。
根源的なジェンダー平等の実現無しには、性暴力やセクハラ問題の真の解決は無い。途は遼遠にも思えるが、逆にこれらは、立場にかかわらず多くの女性たちが共有できる強力な梃子であるともいえる。
來田享子<らいた きょうこ>
中京大学スポーツ科学部教授。専門はスポーツ史、スポーツとジェンダー。日本学術会議第24期連携会員、日本体育学会監事、日本スポーツとジェンダー学会理事、体育史学会理事、NPO法人日本オリンピック・アカデミー理事、日本オリンピック委員会オリンピック・ムーブメント部会部会員、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大学連携チーム委員等を務める。主著は「オリンピックは必要とされているのか」石堂典秀・建石真公子編『スポーツ法へのファーストステップ』(法律文化社、2018)、「近代スポーツはジェンダー規範を乗り越える手がかりになり得たか」『女性学研究』23号: 9-21、2016など。『よくわかるスポーツとジェンダー』ミネルヴァ書房、2018年の編集業績において日本スポーツとジェンダー学会論文賞(2019年6月)を受賞。
スポーツ・身体
【概要】
日本における性暴力およびハラスメント問題の展開を30年を遡って検討する。この30年のあいだ、研究は運動や実践と往還しつつ展開した。
1989年に登場した「セクハラ」概念は、別々に問題化されてきた性と労働を合わさったものとして社会的・学問的に浮上させた点で重要であった。法制化がすみやかに進んだものの、女性差別という観点とは乖離があった。次に2017年のMeToo運動から現在に続く反性暴力の動きとそれへの反動に注目する。17年に刑法177条改正が実現したが19年3月には性暴力無罪判決が相次ぎ、法曹の性暴力への無理解だけでなく、性暴力を告発することに対する反動が強く存在することが可視化された。これは「慰安婦」少女像への攻撃ともつながっている。
根源的なジェンダー平等の実現無しには、性暴力やセクハラ問題の真の解決は無い。途は遼遠にも思えるが、逆にこれらは、立場にかかわらず多くの女性たちが共有できる強力な梃子であるともいえる。
※五十音順
コーディネーター・司会
高峰修<たかみね おさむ>
明治大学政治経済学部教授。専門はスポーツ社会学、スポーツとジェンダー。スポーツおよび身体文化が孕む権力の問題についてジェンダーや多様性の観点から研究。特にハラスメント研究にジェンダー視点をいち早く取り入れてきた。日本スポーツとジェンダー学会理事長、日本体育学会理事、日本スポーツ協会女性スポーツ委員会委員などを務める。近著に「男性学からみたスポーツをめぐる「女性の商品化」問題」『スポーツ社会学研究』27(2)(印刷中)、”Women’s sports in Japan: enters a period of change” in Molnar, Amin and Kanemasu (eds.). Women, Sport and Exercise in the Asia-pacific Region (Routledge, 2019)など。
田中洋美<たなか ひろみ>
明治大学情報コミュニケーション学部准教授。日常の当たり前を疑い、社会のありようを実証的・理論的に解明しようとする社会学と様々な差異・境界・枠を問い直し、新たな知の地平を切り拓いてきた領域の一つであるジェンダー研究を軸に、変わりつつある現代社会の諸相について研究。近年はメディア研究に従事、ソーシャルメディア、AIなどデジタルメディア・テクノロジーの文化的側面に関心を寄せる。MEIJI ALLY WEEK、Gender Gradation Fashion Show等、学生の創造的活動をサポートするとともに学内外の様々な媒体で多様性について発信。近著に「みる/みられるの政治学――視線・監視・ジェンダー」(『みる/みられるのメディア論』共著、ナカニシヤ出版、近刊)など。https://hiromitanaka.net
パート1:ポスター
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